制球力を良くするには、狙ったところにたくさん投げ込むことが大切です。
そのため一人でもできる「的当て練習」はとても効果的なピッチング練習になります。
今回は実戦に役立つ『正しい的当て練習』をお伝えします。
間違った「的当て練習」はピッチングフォームを崩してしまったり、肩や肘の故障を招いてたりしてしまいます。
ここでご紹介する「的当て練習」は、実戦的な制球力を磨くことができ、ピッチングの向上に必ず一役かってくれると思います。
ピッチング練習はやり過ぎ注意ですが、やり方次第
制球力を良くするには、狙ったところに数多く投げ込むことが大切とお伝えしました。
しかし数多くの投げ込みは、体に大きな負担になります。過度のピッチング練習は肩や肘に負担がかかり、特に成長期の小中学生は注意が必要です。
「たくさん投げ込むのがダメなら、コントロールを良くすることはできない!」
という声が聞こえてきそうですが・・・
スピードは遅くても大丈夫
ピッチング練習といったら、力一杯投げることを想像してしまいます。
実際の試合は「スピードのあるボールを狙ったところに投げないといけない」のは確かです。
でも、コントロールを良くするピッチング練習は「力一杯投げないといけない」ということはありません。
100%の力で投げる必要はなく50%以下程度の力で投げてもコントロールを磨くことはできるので、ピッチング練習は50%以下の力でも大丈夫です(^^)
最も肩や肘に負担がかかるのが『一番速いボール、つまり100%の力で投げるストレートの投げ方』になります。
50%以下の力でピッチング練習をしても制球力が高くなるのなら、肩や肘の負担が減るのでそれだけ多く投げ込むことができますね(^^)
肩や肘に負担をかけずコントロールが良くなる『パラボリックスロー』
筑波大学体育系准教授でスポーツ選手の動作解析の研究を行い、野球の動作解析の著書を多数出している川村卓氏は『パラボリックスロー』をすすめています。
このピッチング練習は、「山なり(パラボリック)のボールを目標(的)に向かって投げる」というものです。
パラボリックスローの効果は、大学生の場合はすぐに効果が見られ、中学生は継続的にこの練習をすることで、やらなかった選手よりもコントロールが良くなりました。
詳しいパラボリックスローのやり方をお伝えします。といっても難しいものではありません。
「約10m離れたゴミ箱(高さ150cm,直径43cm)にボールを投げ入れる(30球×1セット)」
これだけです(^^)
「山なりのボールを放物線を描くように投げる」ことが大切です。
ゴミ箱に紙くずを入れる感覚で、バスケットボールのフリースローに近い感覚ですね。
川村卓氏はこのピッチング練習を思いついた理由を著書でこう述べています。
フリースローの上手な選手は「奥行きを把握する深視力感覚が優れている」という研究結果がある。
そこで「ピッチャーでも同じではないか」と考え、肩や肘に負担をかけずパフォーマンスを上げる方法として「パラボリック(山なり)スロー」を開発した。
参考文献:ピッチングの科学
これは正解でした。
研究では「ゴミ箱に入るか入らないか」は大した問題ではなく、この練習を繰り返すこと自体に意味があります。
この練習をすることで奥行き(距離感)を把握する「深視力感覚」を磨かれていきます。
そして実際に的に当てる制球テストをすると、選手たちのコントロールがあきらかに良くなっていました。
昔からスローボールはコントロールを良くするといわれていましたが、この研究はそれを証明しました(^^)
「低め」の的(まと)に投げる練習は良くない
ピッチングでは、アウトローやインローなど低めに投げられるのはとても有効です。
的を使ったピッチング練習「的当て練習」で「低め」に投げる練習は有効です。
では、見出しにある「低めの的に投げる練習は良くない」とは、どういうことなのでしょうか?
それは、ピッチング練習をする場所によっては「低め」に投げる練習をしていけない場所があるということです。
低めに投げる練習をしてはいけない場所とは「ピッチャーマウンド以外」です。
なぜなら、ピッチャーマウンドのない「平らな場所」で低めに投げる練習は、低めへの暴投の練習になってしまうからです。
また、平らな場所で低めの的に投げる練習は、もうひとつ大きな問題があります。
その大きな問題とは、無理に低めに投げようとして「ピッチングフォームが崩れる」ことです。
平らな場所で低めの的に当てようとすると、できるだけリリースを前にしようするため、自然と上体を前方に送ろうとします。
すると、ステップの幅が広くなってしまうことがあります。
ステップ幅が広くなりすぎると、股関節などの下半身がうまく使えず腰の回転が不十分になり、肩や腕に力が入る「上半身に頼ったピッチングフォーム」になってしまいます。
ピッチングでは、下半身をうまく使って体重移動をします。そのとき下半身からの力を効率よく上半身に伝えることが大切です。
踏み出す幅が広くなりすぎると、下半身からのエネルギーが上半身にうまく伝わらず、肩や腕に力を入れて投げることになってしまいます。
では低めに投げるときは、どうしたらいいのでしょうか?
ピッチャーマウンドの傾斜を使う
低めの的に投げる練習は『ピッチャーマウンドの傾斜』を使いましょう。
ピッチャーマウンドのない”平らな場所”で低めに投げると「低めの暴投を投げる練習になる」「ピッチングフォームが崩れてしまう」というのは、先ほどお伝えしました。
その点『ピッチャーマウンドの傾斜』を使ってピッチング練習をすれば、自然と体が斜めに傾きます。
踏み出した時に角度がつくので、意識しなくても自然と「リリースポイントは前」に出てきます。すると少し意識をするだけで低めに投げることができます。
だから低めの的に投げるときは、ピッチングフォームが崩れないように『ピッチャーマウンド』のように傾斜がある場所でピッチング練習をして下さい。
ピッチャーマウンドがない平らな場所では、低めに投げるのではなく、「人の胸元あたりの高さ」に投げて下さい。
平らな場所では「人の胸元あたりの高さ」が最高のピッチングフォームで投げられる最適な高さです。
これは守備の上達にも役立ちます。
当然ですが「胸元あたりの高さ」が相手が一番取りやすので、この高さに投げるピッチング練習は守備の送球にも役立つのです(^^)
また内野手なら、実際の守備のように前からボールを転がしてもらい、90度回転してファーストに投げるように「的当て練習」をするのもいいですね。
上原浩治に学ぶ制球力の高め方
巨人時代にはエース、メジャーでは中継ぎや抑えで大活躍しているや上原浩治はキャッチボールをとても大切にしています。
上原投手といえば、コントロールがとても良いということで有名です。
日本時代は、ボールのコントロール力を示す通算与四死球率は第1位(通算1000投球回以上)で驚きの1.20です(>_<)!!通算1549回投げて、四球はわずか206でした。
メジャーでも抜群のコントロールは健在で、狙ったところに投げる能力が高く、ストレートは140キロ前後ですが、ストレートとフォークのコンビネーションだけで三振の山を築きます。
上原投手の凄さを表すのに『K/BB(奪三振数÷与四球数)』というものがあります。これは「四球ひとつあたりの奪三振数」になります。
この数字が高いほど「コントロールが良く三振を多く奪える投手」ということになります。
メジャーでは3.50以上で優秀とされているのですが、上原投手は驚異の14.33(2012年)です。四球ひとつに対して14奪三振以上です!これはメジャー史上3位の記録になります。
ここでは、上原投手に学ぶ制球力の高め方を「的当て練習」に応用する方法をお伝えします。
初めから完璧なコントロールを求めない
「的当て練習」でいきなりピンポイントに投げるのは難しいと思います。
上原投手は「いきなりピンポイントで投げることは難しいので、投げる目標を大きくして”このあたり”にするとプレッシャーもかからない」と言います。
ピンポイントに「ここっ!」ではなく、「だいたい”このあたり”かな~」にするのです(^^)
また上原投手の代名詞ともいえる”制球力抜群のフォークボール”も「ホームベース付近に投げることから始めた」と語っています
そして、制球力を高めるには同じ距離でばかり投げるのではなく、少しずつ投げる距離を伸ばしていくと上原投手は言っています。
そして5mの距離で、きっちり“このあたり”に投げられるようになったら、10m、15m、20mと少しずつ伸ばしていき「50m、60mでも投げられるようになったら、第一関門はクリアです」
引用元:高校野球ドットコム
的当て練習は1人キャッチボール
「『キャッチボールをするときの意識』がピッチングの上達につながる」と上原投手は力説します。
「キャッチボールで意識して、投げようと思っているところに投げられるかどうか。それだけです。
よく、キャッチボールは『肩を温めるだけのもの』と考えている人がいますが、そんなのは違いますからね。
いかに狙ったところに投げられるか。投げる相手が、立っているか、座っているだけの違いですから、キャッチボールでもコントロールを意識することが、上達を早めると僕は思います。」
「キャッチボールは基本です。でも、この基本が第一ですから。基本を疎かにして、応用は絶対にできないですからね。キャッチボールは本当に大事だと僕は考えています」
引用元:高校野球ドットコム
実際に上原投手はキャッチボールをとても重要視していて、キャッチボールでもコントロール良くしっかりと的(相手の胸元辺り)に投げています。
それは50メートルや80メートルの遠投でも変わらず、ほとんどが的(相手の胸元辺り)にボールが落ちてきます!
キャッチボールは「肩を温める」ためのウォーミングアップにもなりますが、それだけではありません。
上原投手が言うように、コントロールを意識するキャッチボールは、ピッチングの上達に大きな効果があります。
なぜ、キャッチボールの話を出したかといいますと、キャッチボールも「的当て練習」も狙ったところに投げるという共通点があるからです。
繰り返し繰り返し狙ったところに投げる「的当て練習」は、いわば「1人キャッチボール」みたいなものです。
適当に投げるのではなく、ちゃんとコントロールを意識して実際のピッチングを想定し投げることがとても大切です。
的当て練習でもキャッチボールでも、ただひたすらに数多く投げ込むではなく、1球1球無駄にせず投げ込むことが上達を早めてくれます。
投げ過ぎは肩や肘の故障を招きますので、球数を制限して効率よくピッチング練習をして下さいね(^^)
上原投手は「個人練習は大事だが、やり過ぎないように」と訴えています。
個人練習は大事なんですが、やりすぎないことも大事だったりします。
『しなくちゃいけない』という頭にあると思うんですけど、やりすぎると疲れが取れないですし、なんでも『やりすぎ』というのは良くないんですよね。
練習もそうですし、食べ過ぎも良くない。寝過ぎも良くない。8割程度で抑えて、次の日にがんばろうと思うことが、一番大事ですね。
引用元:高校野球ドットコム
スポーツ選手のさまざまなケガや故障は、練習のやり過ぎが原因になっていることがほとんどで、いかに休息を取るかが大切になります。
しっかりと休息をとって、万全の体調でグラウンドに出て練習をするほうが効果的で効率的な練習ができます。
しかし「○○に負けたくない」「もっとうまくなりたい」と無理して練習する人がとても多く、プロでも一軍に上がるため、また一軍に残るために日々限界を越えて練習をしてしまいます。
そのためケガや故障を抱えたまま試合に望んでいる選手が多くいます。
人間は限界を越えることで成長しますが、トレーニングで限界を越えたあとは休息を取ってキチンと回復させることが大切です。
長く野球を続けたい方は関節や筋肉の痛み・違和感など異変があれば無理しないようにして、自分の体を大切にして下さい。
ましてや小学生~高校生で将来プロを目指している方は、とくに注意して下さいね(>_<)
コントロール>スピード
ピッチャーを目指してる選手はどうしても速い球を投げたいので”スピード”を求めがちになります。
またピッチャーだけではなく、野球をしている方は「やっぱり速い球が投げたい!」と思うでしょう。
しかし、いくら球にスピードがあってもコントロールが悪くボールばかり投げていては試合になりません。
「プロの一軍でコントロールが悪い投手でも活躍しているじゃないか!」と言う人もいます。しかし皆さんが思っている以上に、その投手はコントロールが悪いわけではありません。
活躍している投手は、大事なときはキチンとストライクが取ることができ打者をしっかりと抑え、その後大崩れしません。だから活躍できるのです。
コントロールが悪いといっても一軍で活躍している投手は野手や二軍の投手、高校生、大学生よりは当然コントロールがいいはずです。
大切なのは、コントロール→スピードの順番で練習することです。
- まず、遅いボールでもいいのでコントロールをよく投げる
- その後にコントロールできるスピードを徐々に上げていく
この順番が大切です。コントロール→スピードを忘れないで下さい。
しかしスピードを上げようと無理をする必要はありません。
他の記事でも書いていますが
『コントロールを磨けば、スピードは後から付いてくる』
だから心配いりません(^^)
先ほどお伝えしましたが『一番速いボール、つまり100%の力で投げるストレートの投げ方』が肩や肘に一番負担がかかります。
できるだけ100%で投げる球数を減らしたほうが、当然故障しにくくなります。
また「何割の力でピッチングすればキチンとコントロールできるか?」これを覚えることがとても大切になります。
「自分は7割の力でピッチングすればコントロールよく投げられる」ということを覚えれば、実戦でも7割の力でピッチングすれば、それほどコントロールは乱れません。
「自分は○割の力でピッチングすれば大丈夫!」と思えれば、不安もなくなり精神的にも安定し良い結果がでます。ピッチングは精神的な部分がかなり影響しますからね(^^)
スピードよりも大切なこと
桑田真澄氏は「スピードガンなんていらないんですよ。あんなのいらない。ゴミ箱に捨ててほしい」と言っています。
桑田氏といえばコントロールが良いことで有名です。
中学時代にバッテリーを組んでいた西山秀二氏(キャッチャーとしてベストナイン・ゴールデングラブ賞など数々のタイトルを獲得)は桑田氏のことをこう言っています。
「140km/hくらいの球を、中学生の頃から放ってたね。すんごいコントロールしとったよ。ミットを構えた所にしか、ホンマにボールが来なかった。
プロに入って、暴投を捕れなくてコーチに怒られた時、『桑田はこんな所に来ぃへんかったもん。中学生でもそうなのに、なんでプロが出来ないの?』と聞きましたよ。誰も打てんかった。
高校野球で、1年生から優勝して当たり前、プロでも活躍して当たり前、そういうボールやった。
ずーっと野球やってきて、総合的に桑田が一番凄いと思う。オレの中では歴代ナンバーワンのピッチャーは桑田」
引用元:Wikipedia
桑田氏は、スピードばかりを求めないように訴えています。カーブやチェンジアップなどで”緩急”をつければ、遅いストレートでも十分抑えられるといいます。
いいチェンジアップやカーブを投げるピッチャーはストレートが球速より速く感じられます。
また肩が早く開くピッチングフォームでは、バッターから早くボールが見えるので、球速ほど速く感じません。
さらにボールにキレ(ボールの回転数が多い)がないとボールに伸びがないので打たれやすくなります。
- コントロールが悪い
- 緩急をつけていない
- 肩が早く開くピッチングフォーム
- ボールにキレがない
こうなるとスピードが速くても打たれやすくなります。
上原投手や和田毅投手のストレートは140キロ前後とプロでも遅い方ですが、ピッチングフォームが良く、抜群のキレやコントロールで多くの三振を奪っています。
スピードを求めるよりも、まずコントロール・緩急・ピッチングフォーム・キレを優先して下さい(^^)!
まとめ
狙ったところに数多く投げる「的当て練習」は1人でできはおすすめのピッチング練習です。
しかし数多くピッチング練習をすると、肩や肘に負担がかかりますので注意が必要です。
そこでオススメする練習は、10m先のゴミ箱に山なりのボールを投げ入れる「パラボリック(山なり)スロー」です。奥行きを把握する「深視力感覚」を高め、実際にコントロールを良くするという研究結果も出ています。
また低めの的に当てる練習は「ピッチャーマウンドがある所」ならやっても大丈夫ですが、平らな所ではピッチングフォームを崩す可能性が高くなるのでしないで下さい。
広い場所で的当て練習ができるなら、5m先に的を置いて”このあたり”に投げられるようになれば、的までの距離を少しずつ伸ばしていき、コントロールできる距離を伸ばしていって下さい。
1球1球無駄にせず集中してピッチング練習をすることで上達スピードが格段に上がります。キャッチボールもコントロールを意識して相手の胸元にキチッと投げるようにしましょう。
投手ならスピードを求めてしまいがちですが、大切なのはコントロールです。また緩急・ピッチングフォーム・キレもスピードよりも大切です。
『スピードは後から付いてきます』
最後までご覧いただき、ありがとうございます。またよろしくお願いします(^^)
こちらもご覧下さい→簡単!正確なコントロールを身に付けるためのピッチングのコツ・練習!